Stellatus

『不明の感情』🔞
黒ウィズ/元主

「貴君には躾が必要なようだ」
 師匠と離された黒猫の魔法使いは、軍の最高責任者である元帥――ディートリヒの手によって見知らぬ部屋に追い込まれた。
 部屋は華美ではないものの、置かれている物の質が良い。ディートリヒの私室なのかもしれない、と魔法使いは一瞬考えた。
 そう考えた事自体が、現実逃避と言えたかもしれないが。
「余裕があるようだな?」
 ディートリヒに掴まれている右手を更に強くに握りこめられ、魔法使いは痛みにわずかに眉間に皺をよせた。
「余裕な…………う、わっ!?」
 見下ろしてくる鋭い眼差しから顔を背けようとしたが、次の瞬間、掴まれている腕を引っ張られ、ベッドの上に体を投げ出された。
 部屋の主と比べて筋力がないが、一人の男である魔法使いの体重を受けてベッドのスプリングが軋む音を立てる。
 頭からベッドに倒れこむ形になり、とっさに魔法使いは胸をぶつけないように手をつこうと動いた。
 だが、それより先に上から体重をかけられ、両腕はひとまとめにされたかと思うと、ディートリヒの片手で抑え込まれる。
「いっ……」
 体重をかけられる痛みと、先ほどの戦闘で受けた傷――胸に残った傷は治療は受けているが、完全に癒えたわけではない。
 顔を歪めた魔法使いに対し、ディートリヒがどんな表情をしたのかは、抑え込まれた彼にはわからなかった。
 見えない後方で衣擦れの音がした。
「何を……」
 逃れようと、起き上がろうとするが、根本的な筋力の違いは勿論だが、戦いのエキスパートである軍人・ディートリヒは体術もよく知っているのだろう。
 片手だけだというのに、逃れることができない。
「躾と言っただろう?」
 そう言うなり、細い布で両腕を拘束され、体を反転させられた。
 見下ろしているディートリヒの眼差しは深夜の海のように昏く見える。
 魔法使いは身じろぎもできず、その眼を見ることしかできなかった。
「私は貴君に守れと命令を下したか?」
 先ほどの戦闘でのディートリヒの命令は、攻撃せよ、だった。
 声が出ず、代わりに緩く首を横に振った魔法使いに、ディートリヒは薄く笑う。
「そうだ。命令違反をするような者には躾が必要だ」
――貴君は、痛みによる躾はあまり効かぬようだからな。
 ディートリヒの顔が近づき、耳元で囁かれたその言葉の意味を理解できずにいた魔法使いは、すぐにその意味を知る事になる。
 耳元でぴちゃりと、濡れた音がし、その音と濡れた感触にびくりと体を震わせた魔法使いは、上に押し乗るディートリヒを離そうと体を動かした。
「やめてくれ!」
 拒否の返答は、耳朶を緩く噛まれることだった。
 背中にぞくりとした悪寒が走り、首をふって、ディートリヒの唇から逃れようするが、そんなことで逃げられるのであれば、最初の段階で離脱できたことだろう。
 耳朶を甘噛みされ、首筋に舌を這わせられ、鎖骨辺りを吸われる。
「な、なにを……」
 肌の触れ合いの意味がわからないわけではない。だが、ディートリヒがなぜこのような行動に出たかわからず、魔法使いは必死に首を横に振り、その触れ合いから逃れようとする。
「身を挺して私を庇う余裕がある貴君だ。痛みではない方法が有効と思っただけのことだ」
 先ほどの負傷の原因。それは死角になる方向から飛んできた矢の襲撃から、魔法使いがディートリヒをとっさに庇ったものによるものだった。
 師匠からもお人よしだにゃ、と言われる魔法使いにとっては、思わずとってしまった行動だったが、それが元帥の逆鱗に触れてしまったようだ。
「痛み、ではない……って」
「何、躾は厳しくするだけが手段ではないということだけだ」
 唇で弧を描いたディートリヒに、魔法使いの顔から血の気がひく。
「じょ……うだん……を……」
 冗談などを言う男である事は短い付き合いでも気づいていたが、緊張で掠れた声で呟く。
 言葉での返答はなく、革手袋を履いたままの手がシャツの裾から侵入してきた。
 皮膚とは異なる感触に肌が粟立つ。
「ディー……ひゃ……!」
 名を呼び、男の行為を止めようとした魔法使いは、包帯の上から胸の突起をこねくられ、短い悲鳴を上げた。
 続けざまに耳朶を甘噛みされ、魔法使いは上がりそうになる声を押し殺すために唇を強く噛んだ。
 甘噛みされ、耳に息が触れるたびにぞくぞくとした感覚が這い上がってくる。それが快感という事は認めたくなくて、魔法使いは首を振り続ける。
 その間にもディートリヒの手は胸の突起をひっかき、緩やかな刺激を与えてくる。
「判るかね? ここも硬くなっている」
 耳に息を吹き込みながら、囁かれた内容に魔法使いの頬が朱に染まる。
「そ、んなことっ……あっ!」
 思わず否定しようとした魔法使いが口を開いた瞬間を狙って、さらに強く突起をこねられる。
 ぎゅっと唇を噛み締めた魔法使いの様子を見たディートリヒが、シャツに侵入させていた手を抜いた。片手は魔法使いの腕を掴んだままだが、上半身を起こし、密着していた熱が離れる。
 わずかに安堵の息をついたのもつかの間、両腕を頭上でさらに強く引っ張られ、痛みに顔を歪める羽目になった。
 不自然な体勢になりながらも頭上に視線を向ければ、手を拘束していた布――ディートリヒのネクタイがヘッドボードに繋げられているのが目に入る。
 その意味を示すことは簡単だ。
「やめ……」
 腕を引こうとするが、ネクタイによって縛められた腕は自由にならない。
 代わりにベッドがギシっと小さく音を立てた。
 ディートリヒの体がまた近づく。革手袋越しに、腹部をなでられ、悲鳴を噛み殺した喉がひくついた。
「声を出したまえよ」
 尊大な口調で、命令を下してくる男を睨みつければ、男の唇の端が持ち上がる。
 低い笑い声をもらすと、ディートリヒは口で、魔法使いに触れていなかった右手の革手袋を器用に外した。
「声を出したまえ」
 節ばった硬い指先が、魔法使いの顎を掴む。
 顔を背けることもできず、けれど言われるがまま声を出すなどしたくない魔法使いは、唇を噛んでわずかながらの抵抗をする。
 見下ろしてくるディートリヒの目からは、何を考えているかは読み取れない。
 喉の奥で愉し気に笑うと、ディートリヒは脇腹あたりを撫でていた手を上にあげ、胸の突起に刺激を与えてくる。
「強情な事だ。だが……」
 その先の言葉は魔法使いの耳には届かない。
 男の舌が魔法使いの耳を犯す。
「……っ」
 ずっと唇を噛むこともできず、息を求め微かに開いた口に、ディートリヒの指が侵入する。
「ん……っ!?」
 侵入を果たした指は、魔法使いの舌を翻弄する。
「んっ……、んー……!」
 他者に触れられることがない場所を撫でられ、掴まれ、魔法使いの唇の端から、飲み込むことができない唾液がこぼれる。
 舌を蹂躙しながらも、胸に触れる手も止まることもなく、複数同時に与えられる感触に、魔法使いの体ははっきりと熱くなった。
「……はっ……ひぁ……」
 ずるりと舌を引きずり出された。赤い舌が扇情的に見えることは、本人だけがわからない。
 濡れた男の指先は、シャツの下に入り込む。
「あっ……!」
 包帯の上からでもはっきりと硬くなっていることがわかる胸の飾りに、濡れた感触が触れ、思わず魔法使いは高い声をあげてしまった。
 上げてしまった声に、羞恥を感じディートリヒから顔を背けるが、今度はその首筋に舌が近づく。
「ぁ……ぅん……」
「ここも熱を帯びてきたな?」
 くすりと笑う声とともに、ディートリヒは膝で魔法使いの中心を刺激する。
「うあっ……!」
「貴君の躾は、まだ始まったばかりだ。愉しみにしたまえ?」
「な……を、た……あっ、あっ!」 
 楽しみなんかではないと、魔法使いは言い返したかったが、それよりも先にシャツを捲し上げられ、包帯越しに突起を舌で転がされ、嬌声をあげてしまう。
 じわりと包帯から血が滲む。本来痛むはずだが、今の魔法使いにとってはその痛みさえも快楽に感じられた。
「……う、や……へ、ん……だ……」
 己の体の異変にあえぎながらも言葉をもらす魔法使いの様子に、ディートリヒは唇の端を持ち上げた。
 かり、っと軽く突起に歯を当てれば、無意識に魔法使いの腰が跳ね、その隙を狙ったディートリヒの手によって下着ごとズボンをひきずりおろされる。
 外気にさらされ、魔法使いは我に返り、体を起こそうとする。だが、拘束した状態がほどけているわけではない身では、それは叶わず呆気なくベッドに戻された。
 体を起こしたディートリヒの唇が濡れている。それが妙に色気を醸し出しており、魔法使いは思わず顔を横に向けた。
 ディートリヒの手が、魔法使いの足首を掴む。そのまま足は持ち上げられ、魔法使いは驚いて視線を男へと向けた。
 深海のような眼差しが魔法使いを捕らえたまま、ぴちゃりと足の指を銜えこむ。
「ひぁ……っ……、や、やめ……そ、んな……」
 野生動物が捕らえた獲物を食むかのように、ディートリヒの舌先が魔法使いの足を舐めあげる。
「……ぁ……あ、んっ」
 生暖かい感触は足先を丁寧に舐めあげたかと思うと、緩やかに上へと上がってくる。足から脛、ひざ裏、太もも……やがて足の付け根まで到着し、魔法使いは自覚がないまま腰を揺らしていた。
 半ば立ち上がっている中心に触れるか、触れないか、そんなぎりぎりのところでディートリヒの動きが止まる。
「あ…………」
 ねだる様な響きの声をもらした魔法使いは、自分の醜態に気づき首を激しく振る。
「ちがっ……、こんなのっ……」
「何が違うというのだね?」
体を起こしたディートリヒは皮手袋を嵌めたままの左手で、魔法使いの足の付け根に触れる。
 ぴくりと反応し、体を震わせる魔法使いを見下ろし、愉し気に笑うディートリヒ。
「何を期待していたのだね? 言いたまえ」
 嗜虐的な笑みを浮かべ、ディートリヒは命令を下す。
「きた、い、なんて……」
 熱くなった体を男の目の前に晒しながらも、否定の言葉を重ねようとするが、言葉はうまく出てこない。
「私は言いたまえ、と言ったのだ」
 ディートリヒの左手が再度、太ももから足の付け根を撫であげる。
「ひぅ……、ちが……、こん、…な…へん……」
 知識として知っていても、誰かと体を重ねた経験のない魔法使いにとっては、体を触れられ嬌声をあげる自分など認めたくない事だった。
 首筋や、胸元、太ももなどに赤い花を散らし、潤んだ眼差しを向ける魔法使いの嬌態は、明らかに快楽で感じている光景だ。
「いやらしい顔をしているぞ。貴君は存外に淫らだったのだな」
 ネクタイを外したことで首元がわずかに緩んでいる以外は乱れた様子がないディートリヒは冷静すら感じさせる口調だ。
「ちが、う、こんな……あ!」
 ディートリヒが胸元に口づけた後、魔法使いの耳を噛んだ。
 鼓膜に直接送られてくるように感じられる濡れた音に、甘い声が上がる。
 ディートリヒの左手は腿から足の付け根を何度も撫でることを繰り返す。
「さあ、言いたまえ。貴君は何を期待したのだ?」
 囁きは毒のように、魔法使いの体に回る。
 首を幼児のように振り、否定をしようとする魔法使いだったが、ディートリヒの口や手は止まらない。
 魔法使いが望んだ事を口にするまで、弱った獲物いたぶる獣のように、彼を苛むつもりなのだろう。
「……あ、ぁ…………、さわ……っ……て……しぃ……」
 泣きそうになりながら、ディートリヒに答えた魔法使いを、男は喉の奥で笑う。
「それでは及第点に至らぬな」
「な……っん……!」
 羞恥を捨てて、言葉を告げたというのに、落第と言われ魔法使いは反論をしようとする。だが次の瞬間、ディートリヒの指が再度、彼の口の蹂躙を開始する。
 足を撫でていた左手は、魔法使いの膝裏を抱えた。
「んっ、んー……!」
 指は魔法使いの舌だけではなく、歯列や顎の裏まで撫でまわしていく。
「報告はきちんとしなければな」
 たっぷりと魔法使いの唾液で濡れた指先は、膝裏を抱えられ腰が浮いたところで露わになった双丘の奥に触れた。
「ひっ!? な、なにを……!」
「触ってほしいのだろう?」
「ちが……いやだ……や、め……!」
 逃れようと体を捻るが、ギシギシとベッドが音を立てるだけだ。
 円を描くように蕾を撫でられ、何とも言えない感触に、魔法使いの肌が粟立つ。
「やっ……はな……せっ……!」
 抱えられていない足を上げて、ディートリヒの体をのけようとするが、その体勢はむしろ、男にとって好都合になることに魔法使いは気づいていなかった。
 不自由な体勢での抵抗を軍の最高責任者であるディートリヒが、許すはずもなく。
 上げた足はあっさりと捕獲され、ディートリヒの肩に乗せられる。
「自分から足を開くとは、それほど欲しかったのかね?」
 揶揄する言葉に、眼尻から涙をこぼしながら、ちがうと叫んだ魔法使いに、ディートリヒの愛撫が続く。
 気持ちが悪いはずの感触は、じわじわと触れられていく内に、魔法使いの更なる変化をもたらし始める。
「……っ……」
 いっそ、ひどく乱暴に扱われたならば、と魔法使いは思う。
 こんな快感を引き出すような行為では、自分が卑猥な人間なのだと思い知らされるだけだからだ。
 ぎゅっと全身に力を入れ、感じてなどないと言外に訴えるが、ずっと力を入れることなどはできず、蕾を撫でていた指が離れた瞬間、思わず力が抜ける。
 その隙を見逃す元帥などではないというのに。
「あっ!!」
 弛緩した瞬間、ディートリヒの硬い指先が、魔法使いの内に入ってくる。
 異物感に叫んだ魔法使いは、だがすぐにもっと違うことで叫ぶことになる。
「ひ、ぅ……! や、や、へん……、そこ、いや……だぁ!」
 侵入してきた指がある箇所に触れた瞬間、体の内から熱が灯るような感覚に囚われ、魔法使いはその未知の感覚が恐ろしくなり悲鳴を上げた。
「あ、ああぁ……、やめ……」
 緩やかな刺激だというのに、自分の体が自分のものではなくなったかのように、体が熱くなる。
 喘ぎ声をもらしながら、体を震わす魔法使いの胸にディートリヒの唇が近づいた。
「見たまえ」
 命令を受け、魔法使いは潤んだ目を言われるがまま向ける。
 ディートリヒの赤い舌が、胸の突起をいやらしく嘗め回す。昏く見える青い目は魔法使いを見つめている。
 その眼差しに、魔法使いは羞恥と快感で、思考が回らない。
「ひぁ……あ、あっ……ああ!」
 体の内からの刺激と胸の刺激を同時に受け、魔法使いはもう声を止めることができなかった。

 まだ躾の時間は終わりそうにない――。



------------------------------------------------------------
「はっ……」
 途絶えることなく、体の内側から責められ続けられた黒猫の魔法使いは忙しなく息をついた。
 体内には男の指が侵入していたが、動きが止まっている。異物感は当然あるが、自分ではどうしようもない熱が沸き上がる刺激を受けるよりは、魔法使いにとっては助かることだった。
 拘束がまだ解けないの中、わずかに俯き、体全体で息を整えようとしている最中、ディートリヒに内腿に口づけを落とされ、びくりと体を震わせる羽目になる。
 男の唇は魔法使いの肌に着実に跡を残していく。その感触すら快感となって魔法使いを苛み、息が再び荒くなる。
「いやらしい体だ。このような経験は初めてではないのかね?」
 揶揄する言葉に魔法使いは涙で濡れた目で、ディートリヒを睨んだ。
「……そ、んな……はっず……あぅっ!」
 否定の言葉を紡ぎかけたところで、男の指が魔法使いの内を責める。
「あっ、んんっ……!」
 声を出したくなどないのに、勝手に喉からは甘い喘ぎが零れ落ちる。
「……こっ……ンっ……なこ、と……あっ、あんンっ……なん……で……」
 熱くなっている己の体に対してなのか、このような行為に至ったディートリヒに対してなのか、それすらわからず掠れた声で魔法使いは疑問を呟いた。
「ひあっ!?」
 返答の代わりにぐりっと柔らかな個所を強く押され、大きく体が跳ね、ヘッドボードがギシリと音を立てた。
「や……やっ……あぁ!」
 強い刺激に涙が頬を滑り落ちる。
「躾だと言っただろう?」
 忘れたのかね? と体を寄せてきた男が、耳元で囁く。
 ディートリヒの端正な顔が間近に迫り視線が交差した。
 深淵のような昏い眼をしながら、その色は空のような青い眼。
 その眼に映る、だらしなく唾液を口の端から流れさせ、上気した顔をしている自らの姿。
 認識した瞬間ぞくぞくとした感覚が背中に走り、魔法使いはその眼から逃れようと首を横に振った。
「……い……やぁ、だ!」
 このまま見ていてはいけないと言う予感に魔法使いは抵抗しようと、逃走する隙などないことを知りながらも腕や足を無理やりに動かした。
「これだけ悦んでいると言うのに、何が嫌だというのだね?」
 抵抗を抑え込みながら、ディートリヒは更に指を突き動かす。
「ひっ……、や、やぁ……、やめっ……ああっ」
 ディートリヒの言う通り、魔法使いの体は与えられる快楽に震え、感じていることは明白だった。
 胸の突起も硬く、中心も熱を宿している。そして男を受け入れている箇所もびくびくと蠢いていた。
「それとも、これだけではまだ足りないか?」
 一気に指を引き抜けられ、その感覚さえにも体を震わせた魔法使いは、肩で息をつく。
 ディートリヒの体が離れた事に、寸前に言われた言葉の意味を考えることもできず、魔法使いは離れた安堵からぐったりとベッドに体を沈めた。
 微かな金属音が耳に届くが、まだ体内の熱が残っている魔法使いに思考力が戻ってはいない。
 いまだ解けない縛めゆえに、魔法使いはわずかに下を向き、息を整えようとしていた。
 そこに影ができた。
 顔を上げようとした魔法使いよりも早く、ディートリヒの手が、青年の両ひざ裏を大きく広げる。
「……っ!」
 何が起きたのか認めるよりも早く、指よりも太く熱いモノが、魔法使いの体内に侵入する。
「あああっ!!」
 魔法使いは、今までにない悲鳴を上げた。
 男の低い笑い声が聞こえる。
「っつ……いっ……いや……あ、抜い……」
 熱いソレが何かという事も考えることができず、ただその圧迫感と痛みに魔法使いは首を横に振り、懇願する。
 ディートリヒの腰が緩く動けば体内に入り込んだモノの存在を嫌と言うほど深く感じ取れた。
 指とは比較ならない異物感に、体は収縮し、それ以上奥には進ませないと歯を食いしばって抵抗する。
「物足りなかったのだろう?」
 屈辱的な言葉と今まで感じた事のない体験にボロボロと涙を流す青年を見つめていたディートリヒは、首を振り続ける魔法使いの顎を掴んだ。
 視線を強引に合わせられた魔法使いの動きが止まる。
 青いその眼に宿る熱。
 いつも詰まらなそうに戦場を見ている男とは思えないその眼に、魔法使いは目が離せなくなる。
――囚われる。
 頭の中にその一文が浮かび上がる。
「……ぁ……」
 微かな声とともに微かに力が抜けた魔法使いの体を、ディートリヒは視線を外すことなく最奥まで貫いた。
 その衝撃に魔法使いは声を出すこともできず、首を仰け反らす。
 自分の意思とは裏腹にびくびくと体が痙攣し、頭の中が真っ白になった魔法使いは言葉にならない単語を小さく呟くことしかできなかった。
「…………ぁ、あ…………」
 自失している魔法使いを見下ろしながら、ディートリヒは嗤う。
「達したか」
 今までにない強い刺激に、魔法使いは自らの腹部を汚していたが、それを気づくことができなかった。
 男の右手が腹部に放たれた粘着質の液体をぬぐう。その感触にすら体を震わせた青年に、ディートリヒの唇が弧を描いた。
「貴君は本当にいやらしい体をしているな」
「……ぁ、ち……が……」
 呆然としながらも、それでも事実を認めたくない魔法使いは、掠れた声で否定する。それがどれだけ空々しいことでも。
「嘘を言えば、躾が長引くがそれが望みか?」
「……が……ぅ……」
「強情な事だ」
 右手が脇腹をなぞり、胸の飾りを撫でる。それだけで口からは堪えきれない喘ぎが洩れる。
 ディートリヒの左手が再度、魔法使いの顎を掴み顔を向けさせる。
 手袋を嵌めたままの手が、青年の唇をなぞっていく。
 熱を孕んだ青い眼を向けたまま、男は魔法使いに告げる。
「ならば、認めさせるまでだ」
 青年の返答を待たず、男は腰を動かし始める。
「まっ……や、や、ぁ! ああアっ!!」
 揺すぶられ、魔法使いは悲鳴をあげることしかできない。
 達したばかりの敏感な体は、男を受け入れながらまた熱くなってくる。
 逃げをうつように腰を引こうとするが、不自由な体勢ではそれもままならず。
 青い眼からも視線を外せぬまま、魔法使いは男に貪り尽された。

 


 ディートリヒは外していたネクタイを締め直した。
 青年――黒猫の魔法使いは、ディートリヒの躾と称される行為により、散々啼かされ、意識を失いベッドの上に倒れこんでいる。
 その姿を見下ろしたディートリヒは魔法使いの赤く擦れた跡が残る両手首を一撫でする。
 拘束されたまま快楽を与えられた青年は、泣きながら制止の言葉を繰り返していた。
「命令だけ聞いておけばよかったものを」
 魔法使いはディートリヒにとって駒の一つだ。
 彼は本来、この世界で戦う必要がない人間であることは、ディートリヒも理解している。
 銃で脅され、強制的に戦闘に巻き込まれた、被害者であるとも言えた。
 しかし魔法使いは戦いを強制している、いわば加害者であるディートリヒを庇った。
 魔法使いの傷は幸い浅かったが、その行為はディートリヒにとってひどく癇に障った。
 何の見返りもなく、他者に手を差し出す行為とは、ディートリヒは対極の場所で生きてきた。
 生まれ落ち、『何者でもない』者にされ、昏い場所で生活を続けていた男にとっては、その行為はただ無意味にしか思えない。
 他者のために犠牲になる行為など、まして何の繋がりもない者に対してに。
 静かな息を立てている魔法使いに視線を向ける。
 いつもはローブに隠されている肌のあちこちに鬱血の跡が残り、下腹部には白い残滓がこびりついている。
 泣きながら、ディートリヒを受け入れざるえなかった魔法使いは自分の身の変化についていけない様子だった。
 治療時に飲まされた鎮痛効果のある薬湯のせいだとは、あの場では気づかないことだろう。
 その事実を知らない魔法使いは、自分の行為をどう思うか。
 無垢とは言わないが、すれた様子もない魔法使いは肌の触れ合いに関することはあまり知らなかったようだ。
 目が覚めれば、己が見せた痴態に落ち込むかもしれない。
 それとも自分に対して憎しみを抱くのか。
「…………何を」
 他者に対して考え込むなど自分らしくない事に気づき、ディートリヒは緩く首を振ると立ち上がり、部屋を出る。
 魔法使いはディートリヒにとっては単なる駒だ。
 使えない駒であれば切り捨てればいいだけの話だというのに、指先に小さな棘でも刺さったかのような小さな不快はすぐには消えることはなかった。 畳む
SNS疲れかもしれない。自分のペースで呟くのが良さそうだなあ。
てがろぐにまとめようかと思ったけど、やっぱりHTMLで組むかなあ。2カラムで格作品が見やすいページにしたいんだよなぁ。